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東京地方裁判所 平成5年(ワ)16131号 判決

原告

オールステート自動車火災保険株式会社

ほか一名

被告

工藤照雄

主文

一  被告は原告オールステート自動車・火災保険株式会社に対し一四八万三六六三円及び内金一三五万三六六三円に対する平成五年七月三〇日から、内金一三万円に対する平成五年九月一八日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告株式会社テルザに対し三六一万四五〇〇円及び内金三二九万四五〇〇円に対する平成五年三月三〇日から、内金三二万円に対する平成五年九月一八日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

五  この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は原告オールステート自動車・火災保険株式会社に対し、一五〇万三六六三円及び内金一三五万三六六三円に対する平成五年三月三〇日から、内金一五万円に対する平成五年九月一八日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告株式会社テルザに対し、三九六万七〇五六円及び内金三五六万七〇五六円に対する平成五年三月三〇日から、内金四〇万円に対する平成五年九月一八日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告に追突されたため原告株式会社テルザ所有の車両が損傷したとして、原告オールステート自動車・火災保険株式会社が商法六六二条により保険契約に基づいて支払つた金員(物損)の求償を、原告株式会社テルザが民法七〇九条により物的損害賠償を、それぞれ被告に求めた事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成五年三月三〇日午後七時一五分ころ

(二) 場所 東京都大田区大森中一―一産業道路上

(三) 被害車 普通乗用自動車(品川三四な七八九八)

運転者 訴外川島利雄(訴外川島)

(四) 加害車 大型貨物自動車(足立一一ら一五七)

運転者 被告

(五) 加害車が被害車に追突した。

2  損害

原告株式会社テルザ(原告テルザ)は被害車の修理代として一四〇万三六六三円の損害を受けた。

3  保険契約

原告オールステート自動車・火災保険株式会社(原告オールステート)は、原告テルザと自家用自動車総合保険(証券番号三二五二二三三四〇二)を締結し、同契約中の車両保険によつて免責額五万円を控除した一三五万三六六三円を平成五年七月三〇日、原告テルザに支払つた。

二  争点

1  事故態様―被告の過失の有無

(原告らの主張)

(一) 訴外川島が被害車を運転して前記場所の第二車線を進行中、先行の訴外栗沢行雄運転の普通貨物自動車(栗沢車)に続いて停止したところ、後続の加害車が追突した。

(被告の主張)

(二) 被告は加害車を運転して時速約三〇キロメートルで第二車線を、栗沢車の後ろを走行していた。第一車線を進行していた訴外川島は、同車線上の先行車であるバスがバス停で停止したので、第一車線から第二車線の栗沢車と加害車の間に割り込んで急ブレーキをかけたため被告が急制動の措置を講じたが被害車の後部に追突した。

したがつて、被告は無過失である。仮に過失があるとしても三〇パーセントを超えない。

2  損害額(原告らの主張は別紙損害金計算書のとおり。)

第三争点に対する判断

一  争点1

1  証人川島利雄の証言の要旨は次のとおりである。

(一) 本件事故現場付近は片側三車線の道路であり、同証人の運転していた被害車は、時速約四〇キロメートル前後で第二車線を走行していた。

(二) 同証人の前を栗沢車が走つており、同車の左側を猛スピードで走つてきた車が、栗沢車の前に急に進路変更して入つてきたため、栗沢車が急ブレーキをかけ、同証人も急ブレーキをかけて止まつた。

(三) 同証人は被害車の助手席に同乗していた同証人の父と顔を見合せ、ぶつからなくてよかつたと話していたところ、加害車が被害車に追突した。

追突されたのは急停止後三ないし五秒後である。

(四) 加害車が追突して、被害車は一メートル前後押し出され、被害車の右側テールランプ等が損傷した。

2  被告の供述(被告本人、乙二)の要旨は次のとおりである。

(一) 被告は本件事故現場付近の第二車線を時速三〇ないし三五キロメートル程度で走行していた。

被告の七、八メートル前には一トン車か二トン車位の小型トラツクが走つており、左車線(第一車線)の約三〇メートル前方にはバスが走つており、そのバスの一五メートル後方を被害車が走っていた。

(二) バスがバス停で止まつたため、被害車は第一車線から第二車線に車線変更しようとしたが、被告の前の小型トラツクが被害車の右後方から接近していたので、バス停の後方一〇メートル位の地点で被害車は一旦停止か徐行し、被害車の右側を小型トラツクが通過して停止すると、被害車は被告の直前に割り込んで同時に停止した。

(三) 被告は時速二、三十キロメートルの速度で走行していたため、急ブレーキをかけ、少しハンドルを右に切つたが間に合わずに、被害車が被告の前で停止してから二、三秒後に被害車後部に追突した。

(四) 被告と前方の小型トラツクとの車間距離は八ないし一〇メートル位であった。

3  しかし、次のとおり被告の供述には疑問があり、その供述を採用することはできない。

(一) 一般的には乾燥路面で時速二〇キロメートルで走行する車両は、停止するまでに約九メートル、時速三〇キロメートルで走行する車両は停止するまでに約一四メートルを必要とすることは当裁判所に顕著であるが、被告は先行の小型トラツク(栗沢車)との車間距離が八ないし一〇メートルであつたと供述するところ、そうであれば栗沢車が停止した時点で制動を開始しなければ、栗沢車に追突することになるにもかかわらず、その供述によると栗沢車が停止し、その後被害車が割り込んだ時点で急ブレーキをかけたというものであり、制動の開始の遅れについて合理的説明がなく、むしろ被告の前方不注意を自認するものと言わざるをえない。

(なお、証拠上路面が乾燥していたことを確定できないが、路面が濡れている場合にはより長い停止距離を必要とすることは顕著な事実であり、そうであればかえつて被告に不利な事情となることは明らかである。)

(二) 証拠(甲二)によると被害車の長さは四八二センチメートルであることが認められるところ、加害車と栗沢車の車間距離を被告の供述中最長の一〇メートルとすると、被害車が被告の直前に割り込んだ時点で、加害車と被害車の距離は、被害車と栗沢車の車間距離を考慮しないとしても、約五・二メートルしかない。そうすると加害車が時速二〇キロメートル(秒速五・五五六メートル)で進行していたと被告に有利に仮定しても、その空走距離も勘案するとブレーキをかけてから、約一秒後には衝突することになるが、被告は被害車停止後二、三秒後に追突したと供述しており、被告の供述する事実には矛盾がある。

4  右のとおり被告の供述は採用できないから、本件事故の態様は証人川島の証言のとおりの事実が認められるというべきで、訴外川島に落ち度はなく、被告の前方注視義務違反しかも被告の一方的過失による追突事故である。

よつて、被告は民法七〇九条により原告テルザの被つた損害を賠償する義務がある。

二  争点2

1  修理費

原告テルザが被害車の修理代として一四〇万三六六三円の損害を受けたこと、原告オールステートが、原告テルザと自家用自動車総合保険(証券番号三二五二二三三四〇二)を締結し、同契約中の車両保険によつて免責額五万円を控除した一三五万三六六三円を平成五年七月三〇日、原告テルザに支払つたことは当事者間に争いがない。

よつて、被告は民法七〇九条により原告テルザに五万円、商法六六二条により原告オールステートに一三五万三六六三円を支払う義務がある。

2  代車料

証拠(甲二、三、五、六、証人川島)によると、被害車はアメリカトヨタ製のステーシヨンワゴン(セプター)であること、その修理見込み日数は一四日間とされたこと、その修理部品はアメリカから取り寄せをしなければならなかつたため修理に日数を要し、平成五年六月三〇日ころに修理が完了したこと、訴外川島は被害車の代車として、それと同等のクラスであるベンツの二三〇ステーシヨンワゴンを、平成五年四月三日から同年七月二日までの九〇日間、一日につき三万五〇〇〇円で使用し、消費税を含む三二四万四五〇〇円の債務を負担したことが認められる。

更に、証拠(乙一、証人川島)によると、右代車使用期間中から被告は訴外川島の割り込みを主張しており、被告側の保険会社の交渉担当者である鈴木克成は、平成五年四月八日、同月一四日、同年六月七日、同月二七日に、訴外川島や被害車の修理会社である有限会社ビーフラツト(ビーフラツト)に対し、訴外川島に過失があれば代車料は支払わず、被告の一方的過失であれば代車料を支払う、現在事実関係の調査中である旨を伝え、事実関係が明確になり被告の一方的過失であることになれば、訴外川島が使用中の代車の入れ替えを申し入れるとの考えであつたこと、同年五月上旬ころ、右鈴木は代車の費用が高い旨を訴外川島に伝えたが、その後は連絡をしなかつたことが認められ、被告らが積極的に訴外川島が使用していた代車について異議を伝えたり、代車の提供をしたり、他の車種への入替えを申し入れた事実は窺われない。

以上の事実によると、訴外川島の代車の使用はその車種、費用、期間とも不相当とは認められないうえに、被告側はその一方的過失による事故であるにも係わらず、訴外川島の過失を主張するのみで代車等について積極的な対処を怠り、本件代車の使用を結果的に黙認する形になつたもので、被告においてはこの結果を甘受するのも止むを得ないものと考える。

3  評価損

証拠(甲四、五、一一、証人川島)によると、原告テルザは被害車を平成五年二月二七日、ビーフラツトから四一五万円で購入したこと、平成五年七月時点での時価額は二八六万円とされていること、平成五年八月六日に原告テルザがビーフラツトからメルセデスベンツ300TEを購入した際、被害車は二五〇万円で下取りされていること、その後ビーフラツトは被害車をトヨタに売却したことが認められる。

右事実によると、被害車は購入の五か月後である平成五年七月の段階で約三二パーセントの時価評価の低下があり、その後下取りの際にも更に評価が低下していることが認められるが、それは通常の経年的な減価の範囲内と考えるのが通常は自然であり、更にビーフラツトも被害車を他に転売しているのであつて、その転売価格は証拠上不明であるとはいえ、転売は可能であつたものであるから、修理後にもなお外観や機能上の欠陥が存在していたともいえないのであつて、本件証拠関係において評価損を認めるのは相当とはいえない。

4  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起及び遂行を原告ら代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件の事案の内容、審理経緯及び認容額等の諸事情に鑑み、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、原告テルザに三二万円を、原告ナールステートに一三万円をそれぞれ認めるのが相当である。

5  合計(別紙損害金計算書のとおり)

損害の合計は、原告テルザが三六一万四五〇〇円、原告オールステートが一四八万三六六三円となる。

三  まとめ

以上によると、原告らの請求は、原告オールステートが被告に対し一四八万三六六三円及び内金一三五万三六六三円に対する保険金支払日である平成五年七月三〇日から、内金一三万円(弁護士費用)に対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年九月一八日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による損害金を、原告テルザが被告に対し三六一万四五〇〇円及び内金三二九万四五〇〇円に対する本件事故の日である平成五年三月三〇日から、内金三二万円(弁護士費用)に対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年九月一八日から、それぞれ支払済まで年五分の割合による損害金をそれぞれ求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 竹内純一)

損害金計算書

事件番号5-16131

当事者 原告オールステート自動車火災保険(株)・(株)テルザVS工藤照雄

〈省略〉

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